ブラックIT企業の見抜き方

「ブラック会社に勤めてるんだが、もう俺は限界かもしれない」

ブラック企業というキーワードを広めたのはこの物語であることに議論の余地はないと思います。

更に、この物語(特に映画版では)中小IT企業≒ブラック企業というイメージも抱かせました。

しかし、これは当たらずとも遠からずです。

確かに、私も中小IT企業に勤めていた経験がありますし、実際ブラック企業に近いものだったと思います。

SESが主なIT企業がブラック臭を漂わせてしまうのはもはや疑いのないことです。

一方で、これだけブラック企業が社会問題化した背景には、転職サイトを使って大量に社員を雇い、死ぬほど働かせて使い捨てるという大手企業の存在があったことも事実です。

ですから、ブラック企業を見抜こうとするときに企業規模の大小だけで判断するのは極めて危険です。

では、ブラック企業を見抜くためにはどうしたらよいのでしょうか。

この記事では、IT業界の特性を加味しながら、ブラック企業の見抜き方、IT企業の求人を見るときのポイントを紹介したいと思います。

ブラック企業を見抜くポイント

この記事で触れたように、少ない予算で下請け業務をする中小企業の場合、社員が劣悪な就業環境に置かれるケースが多い傾向があります。

こういった情報は求人票から一定見抜くことが可能です。

求人票の募集要項を見てみてください。内容がよく見かけるテンプレート風のものは要注意です。

転職サイトやハローワークの求人票に下記のような表記があるものは警戒しましょう。

未経験者積極採用

教育体制も整っていないような小規模の企業が未経験者を積極的に採用する旨の表記がある場合は要注意です。

未経験では追いつけないような業務量、勉強する時間を確保することもできないほどの長時間労働などが想定されます。

特に設立間もない企業や、離職者が多数出ている企業は気を付けるべきです。

会社に教育を求めてばかりいる未経験者はたとえブラックでなくとも長く続きませんが、未経験者を採用するにあたり、まったく教育体制が整っていない環境は避けた方が良いでしょう。

大量採用をしている

上に書いた未経験者積極採用と同様に、人の出入りが激しい会社の可能性があります。

もちろん業績が好調で事業拡大のための増員の可能性もあるので、必ずしもネガティブな表記ではありません。

業績が好調に推移しているか、現在の従業員数に対し、採用予定人数が1割以上でないかということをチェックしてみてください。

直近数年の業績があまり良くない、従業員数に対し採用枠が多く感じられる場合は黄色信号です。

アットホームで働きやすい環境、具体的な業務内容の記載がなく「成長」「夢」といった漠然とした内容

業務内容の明確な表記がない場合も要注意です。

なんとなく安心して働けそう、なんとなく前向きなイメージが持てて将来的な希望がある気がするような内容を羅列している中小IT企業は怪しいです。

もちろん安心できる環境、希望が持てるような環境で働けるイメージは悪いものではありません。

しかし、自分自身が入社してどのような業務を担当するのかということがイメージできないようではNGです。

そういた情報を提示してこないということは少し注意をした方が良いかもしれません。

私
ブラック企業では「やりがい搾取」といった手法で従業員をこき使います。やりがいと言う名のもとに、異常なノルマが課され、朝早くから夜遅くまで働かされるのです。
こういった企業の特徴は、経営者のロマンや壮大なビジョンを掲げているということです。とても重要なので覚えておいて下さい。

給与について、基本給、残業代の明確な表記がない(月給○○万円、年収○○○万円等)

例えば「年収400万円~」「月給25万円~」と記載されていた場合、この下限の400万円、25万円の内訳はどうなっているかわかりますか?

残念ながらこの表記だけでは内訳がわかりません。つまりそれは大切な部分がぼやかされてしまっているかもしれないのです。

なぜそれがリスクとなるかというと、月給が異様に低い、残業代が出ない、みなし残業時間が異様に多いといったネガティブな要素が含まれている可能性があるからです。

SEやプログラマという仕事の特性上、残業は切っても切り離せないものです。しかしその残業時間に対して報酬を支払わないということは明らかに法律違反となります。

入社してみたら実は残業代が出なかった、みなし残業時間よりもはるかに多い時間残業をしているという実態に気づくというのはブラック企業あるあるです

よって、求人票で基本給や残業代を明記していないということは、蓋をしておきたい何かがある可能性があると考え、面接などの機会に必ず明確にしておきましょう。

年俸制、管理職扱い

ブラックIT企業が良く使う手としては、年俸制管理職扱いというものがあります。

こういったことが求人票に書かれていたら、黄色信号を通り越してレッドカードです。

この2つに共通するものが分かりますか?

これらは、SEやプログラマにつきものである残業代を払わないで済むようにするための方便です

まず年俸制ですが、年俸というと野球選手のイメージがあるから、残業代が出ませんと言われても何となく納得してしまうのですが、これは大きな間違いです。

野球選手はあくまでも個人事業主。サラリーマンは基本的に正社員です。

年俸制と言うのはあくまでも、年に1回給料が決定するという手法に過ぎないのです。

正社員であるからには、経営側の人間でない限り、残業代は出ます。年俸制だからうちは残業代が出ませんというのは完全な違法なのです。

そして、管理職扱いも同様です。

これは、お前は経営側の人間だから、残業代は発生しないよということにしますというやり方です。

私は、入社二年目の若手社員が名刺に管理職と書かせるだけで、残業代が一切払われなくなった事例を知っています。

しかし、いくら名刺に「課長」と書かれても、実態は現場で手を動かすSEだったりプログラマだったりする訳です。

こういった人のことを「名ばかり管理職」と呼びます。

これも完全な違法です。裁判では会社側が普通に負けています。

客先常駐が主力事業の会社

SESは前編でも触れた通り、客先常駐型の仕事です。

給与が低いだけではなく、技術力の向上やキャリアアップも望めない環境が多いため、ブラック企業が多いのが実態です。

求人票の事業内容欄に「一般労働者派遣事業」「SES事業」といった表記があった場合は避けておくのが無難です。

また、勤務時間が「プロジェクト、クライアントにより異なる」という表現になっている場合も要注意です。

さらに、ホームページなどに取引先に大手の名前がずらりと並んでいる場合も警戒してください

小規模の中小企業が直接あちこちの大手企業から仕事を受注することは現実的ではありません。人を派遣しているから大手の名前を羅列できるだけです。

私
SESは元請けが大手SIerであることが大半です。こういった大手の名前があったら警戒した方が良いと思います。

また、簡単にチェックできる方法としては、転職サイトや新卒採用のサイトに掲載されている売上高を従業員で割ってみることです。

人売りSESをしている場合、従業員1人あたり売上高が概ね1,000万円かそれ以下の場合が多くみられます。

従業員数に制約されないパッケージソフト販売やクラウドサービスなどのビジネスは、従業員1人あたり売上高が2,000万円、3,000万円と大きくなりますが、人売りの場合は月単価幾らというビジネスのため一人あたり1,000万円以下に落ち着くからです。

会社の場所は参考にならない

ブラック企業は人を集めようとするあまり、都心の好立地にオフィスを構えたりすることがあります。

場所が良いから儲かっていると思ってはいけません。

社員の給与を削ることで、高い家賃を払っているのです。

ですから、場所は参考にしないで下さい。

それよりも、チェックしたいのは社内の様子です。

やたら静かだったり、人が少ない場合、明らかにSESで人を外部に常駐させています。

面接の時に極力チェックするようにして下さい。

こんなIT中小企業は入社を検討してOK

ブラック企業を見抜く手段はわかったけれども、どんな企業なら安心なのかよくわからないという方のために、一定安心してOKというラインをご紹介します。

求人票や企業サイトを見ながら、当てはまる項目がどれだけあるかを確認してみてください。

業績も従業員数も右肩上がり

上で書いた通り、業績が良くないのに人をたくさん採用しているということはブラックである可能性が高いです。

しかし、業績が良く採用も増やしているということは順調に成長している優良企業であると一応考えることができます。

これはあくまで一応の目安であり、必要十分条件ではありません。なぜならば、名高いブラック大企業も元は飛ぶ鳥を落とす勢いで成長した中小企業だからです。

ですから、ブラック企業である可能性もそれなりにあります。以下のチェックポイントも併せて検討してみて下さい。

いずれにせよ求人票、企業サイト、就職四季報などでチェックしてみましょう。

離職率が低い

就職四季報を調べてみてください。離職率が明記されていないのであれば逆にあまりお勧めはできません。

離職率が低いということは、人が定着する働きやすい環境であるということです。

離職率の低さをしっかりとアピールしている企業は信用できる可能性が高いと言えます。

ただし、離職率については計算方法が法律で決まっている訳ではなく、低く見せようとすれば幾らでもできます。

簡単に例を挙げると、3年間の離職率を計算する場合、

3年間に退職した従業員÷3年前の4月1日(年度開始日)の在籍人数

(例)12人÷100人=離職率12%

となりますが、これを1年間で計算してしまうとどうでしょう。

毎年退職者の分だけ入社させているとすると単純計算では、

(例)4人÷100人=離職率4%

とすることができます。

離職率とだけ書くとこのようなトリックが可能ですので要注意です。

私
ちなみに私が以前いた会社では従業員50人に対し、毎年5人は辞めていましたので、3年間離職率は30%となります。バロスwww

平均年齢が結構高め

若手を大量に採用しているブラック企業は平均年齢が若いケースが多いです。

逆に平均年齢がやや高めの企業は在籍年数の短い人ばかりではなく、一定人が定着している証拠と言えます。

ただし、上が詰まっているので、あまり昇進は見込めないかもしれません。痛しかゆしといったところですが、もしあなたが福利厚生面を重視した人であれば、よく見ておきたいチェックポイントです。

また、将来有望な若い人が辞めて、市場価値の低くなった古株だけが残っているというケースもありますので要注意です。

これは、SESを主としている会社では割と多く見られる傾向なのですが、事業会社のIT部門などに常駐している人は長期間客先常駐し続けるケースも珍しくありません。従って、会社では古株となってきます。一方で、客先を選べない若手は次から次へと炎上プロジェクトに投入され辞めていきます。そうすると、毎年平均年齢が上がっていく訳です。

ですから、平均年齢はチェックポイントとして必要十分ではありません。他のチェックポイントと総合して検討した方が良いと言えます。

残業代が適切に支給される、残業が多すぎない

本来残業代というものは、残業した時間に対する報酬であるため、全額支給されなければなりません。

それを怠り、従業員にサービス残業をさせているということは罰則の対象となります。

よくありがちなみなし残業についても、その時間以上働いた場合はその分追加で残業代を支給しなければなりません。しかし多くのブラック企業ではこれらを無視しています。

残業代について「全額支給」といった表記がある企業は信用できる可能性が高いです。また、想定される残業時間が多すぎない場合もOKです。

教育制度、評価制度が整備されている

未経験採用をしている企業で教育制度が充実していることを情報開示している場合は信用できます

この教育制度ですが、具体的であればあるほど信用性が高くなります。

教育とは言いつつOJT(On the Job Trainning)、つまりいきなり現場にぶち込まれてしまう、といった荒々しい教育方法を取る会社が多いのが実態だからです。

ですから、年間何回か社外講師を招いて研修をしています、階層別研修を行っています、などしっかりとしたOFFJT(OFF th Job Trainning)の仕組みがある方が望ましいです。

最悪なのは、地獄の洗脳新人研修や自己啓発の名の元で休日出勤で勉強会をさせられるなどです。ここら辺はしっかりとチェックした方が良いです。

また、評価制度も整備されていて、評価によって昇給があることなども明記している場合、従業員を軽視しておらず将来性がある企業であると考えても良いでしょう。

自社製品の開発をしている

中小企業でも自社製品の開発をしている企業もあります。

完全な下請け企業の場合、ピラミッド構造の下部になり、就業環境も下に行くほど悪くなります。

しかし、自社商品の開発をし、強みを作っている中小企業もあります。

企業ホームページを確認して、開発実績があるかをチェックしてみてください。

ただし、昨今自社パッケージや独自サービスを持っているように書いている糞みたいなSES会社が結構多くあります。

そういった会社では、実際に独自パッケージは持っているものの、全く売れていません。そのパッケージやサービスの売上で食っている訳ではないということです。

それをチェックするためのポイントは、導入企業数です。導入企業数が少ない、そもそも導入企業数が載っていないということはその独自パッケージやサービスはほぼ売上に貢献していない、つまりSESが主な事業であるということが分かります

更新忘れがあるかもしれないと思うかも知れませんが、会社としては、本来そのパッケージやサービスの導入企業数が多ければ多いほどアピールできるので、ホームページに載っていないだけ・・・という可能性は極めて低いと思って良いでしょう。

まとめ

いかがでしたでしょうか。

最後に、上記をチェックリストとしてまとめておきます。

当てはまる項目が多ければ多いほどブラック企業度が高いので気を付けましょう。

チェック チェック項目
未経験者積極採用
採用人数の多さ
離職率が高い
平均年齢が低い
企業情報がアットホームで働きやすい環境や成長、夢など具体的でない
社長のビジョンが壮大でロマンチック
給与について、基本給、残業代の明確な表記がない
年俸制
事業内容欄に「一般労働者派遣事業」、「SES事業」と書かれている
勤務時間が「プロジェクト、クライアントにより異なる」と書かれている
取引先に大企業の名前がずらりと並んでいる(特にSIer)
独自パッケージソフトやサービスの導入企業数が少ない
会社の中が静かで、閑散としている
教育制度、評価制度が明確でない

一方で、中小IT企業でも選ぶポイントを押さえれば、優良企業と出会える可能性は十分にあります。

自分自身の描くキャリアと合致する部分の多い企業を選ぶためにも、しっかりと事前情報収集をしておきましょう。

自分の力だけでは得られない情報がある場合は、転職エージェントを利用してみることも一つの方法です。

様々な角度から調べてみることをおすすめします。

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