特定派遣廃止でどうなる?影響は?SESとIT業界の今後

このページでは2018年の特定派遣廃止の影響についてお話していこうと思います。

  • SES業界はどうなるのか?
  • IT業界全体への影響は?
  • フリーランスエンジニアへの影響は?
  • 派遣社員への影響は?

など法改正によって不安を抱える方も多いのではないでしょうか。

このページでは、まずは特定派遣についての基礎知識の説明をしていきます。
その後、業界の将来やエンジニアへの影響について言及していこうと思っております。
このページを見れば「すっきり理解」できるように簡単にまとめましたので皆さんの参考になれば幸いです。

注意

「特定派遣」は簡単に言えばSES会社が派遣先と簡単に派遣契約を結ぶことができるという制度でした。こう書くといかにも悪法のように見えますが、実際多くのSES会社が悪用していました。こんな制度が長く続く訳はなく、平成27年9月30日施行の労働者派遣法改正法で廃止されています。そのためこの記事は不要ではありますが、SESというビジネスが成立してきた歴史的な経緯として残しておくことにしました。

特定派遣と一般派遣の違いとは?

まず、特定派遣廃止とその後の影響をお話するにあたり理解してきたいポイントがあります。
それは「特定派遣と一般派遣の違い」という点です。

これがわからない事には、特定派遣廃止の背景や一杯派遣がそもそも何故行われたか?ということがよくわかりません。
という事で、まずはここから説明していこうと思います。
といっても全く難しいお話ではありませんので誰でも簡単に理解できると思います。
早速見ていきましょう。

特定派遣とは?

まず今回廃止になった特定派遣とはどういったものか?という点について説明していきましょう。
ごくごく簡単にいうと

  • 特定派遣は、派遣会社の正社員として雇用契約を結ぶ
  • 雇用契約した派遣会社から労働先の企業に派遣される

という形態の契約になります。

特定派遣の26種とは?

さて、特定派遣において派遣する職種というのは定められており、どういった職種でもOKという
訳ではありません。
先に説明したように、ITエンジニアというのがその職種の代表格です。

政令で定める26業務は以下の通りとなっておりますので参考にしてみてください。
(今回の特定派遣の廃止の最も大きな影響を与えたのソフトウェア開発です)

1号(ソフトウェア開発)
電子計算機を使用することにより機能するシステムの設計若しくは保守(これらに先行
し、後続し、その他これらに関連して行う分析を含む )又はプログラム(電子計算機に 。
対する指令であって、一の結果を得ることができるように組み合わされたものをいう。第
23号及び第25号において同じ )の設計、作成若しくは保守の業務

ソフトウェア開発
機械設計
放送機器等操作
放送番組等演出
事務用機器操作
通訳・翻訳・速記
秘書
ファイリング
調査
財務処理
取引文書作成
デモンストレーション
添乗
建築物清掃
建築設備運転・点検・整備
案内・受付・駐車場管理等
研究開発
事業の実施体制等の企画・立案
書籍等の制作・編集
広告デザイン
インテリアコーディネーター
アナウンサー
OAインストラクション
テレマーケティングの営業
セールスエンジニアリングの営業
放送番組等における大道具・小道具

特定派遣は正社員で常時雇用である

特定派遣はあくまでも「正社員」という形で雇用されます。
また、法令のうえでは「常時雇用」というのが建前になっています。
建前、といったのは特定派遣を行う会社には色々と悪さをする企業がありまして、
それが問題視されていたのですがその解説はまた後程。

特定派遣は届け出制である

特定派遣は今まで届け出制でした。
厚生労働大臣に届けを出せば誰でも事業認可が下りますし、規制はゼロに等しい状況でした。
言葉は悪いのですが本当に誰でもできてしまう、という現実がありました。

実際にこういった環境から、IT業界の派遣業は引退したおじいちゃんから怪しいブローカーまで
様々な人種が参入してきて歴史が作られてきました。
このような算入障壁の低さが多数のSES事業やエージェントを生んできたのは間違いありません。
とはいえもちろんこれがIT企業のとって必ずしも悪ばかりだったとはいえません。

 

  • 資本に乏しいベンチャー企業でも躍進できる環境がある
  • スモールスタートが可能になる
  • 中小企業でもコネクションや人脈を生かし企業しやすい

という点は起業する側にとっては大きなメリットです。
その中から躍進を遂げたり大企業に成長するようなポテンシャルをもった企業を生まれてくるわけですから。

その反面、

  • 不要な介在を行う企業が跋扈するため商流が深くなる
  • 商流が深くなるためエンジニアの低賃金に拍車がかかる
  • 多重請けの構造によりトラブルが起きた時の責任が不明確になる

このように、エンジニアと派遣の受け入れ先にとって大きなデメリットに繋がる面があったのも事実です。

一般派遣とは?

次に一般派遣について説明していきましょう。

  • 一般派遣は派遣会社に労働者として登録します。
  • その後派遣先との合意があれば、雇用契約を結び働くことになります。

派遣先との契約が終了したら派遣元との契約を終了することが特徴です。

一般派遣は許可制である

特定は派遣が届け出制であったのはお伝えした通りです。
一方で一般派遣は許可制です。
一定の資産や資格を保有する法人しか許可がおりないため、派遣元の信頼性が担保されるわけです。

一般派遣の取得条件について

一般派遣資格の取得条件については以下の通りです。
この中でも特に資産要件がクリアできない、という事業者がいるようです。

  • 事業主等が一定の欠格事由(禁錮以上の刑法又は労働法等に違反して罰金の刑に処せられ、その後5年を経過しない等)に該当しないこと
  • 当該事業が専ら特定の企業等に対して労働者派遣事業を行うことを目的とするものでないこと
  • 労働者派遣事業を適正に遂行することが出来る能力を有すること
  • 個人情報を適正に管理し、派遣労働者等の秘密を守るために必要な措置が講じられていること
  • 派遣元事業主が派遣労働者の福祉の増進を図ることが見込まれる等適正な雇用管理が維持し得るものであること
  • 資産的要件を満たしていること
  • 社会保険、労働保険に加入していること

一般派遣の資産要件について

一般派遣の資産要件については以下の通りです。

  • 基準資産額≧2,000万円×事業所数
  • 基準資産額≧負債÷7
  • 自己名義現金預金額≧1,500万円×事業所数

特にこの中で問題なのが現預金が1500万円ないといけない、という点です。
一般派遣を取得しようとする中小企業や零細企業にとってはこの点がネックとなるケースもあるようです。

特定派遣廃止はなぜ行われたのか。その理由について

派遣法というのは比較的コロコロ変わることでも知られています。
働き方というのは時代にあわせて変わっていくものです。
その実態に即した形で法律があるべき、というのがその大きな理由です。
まずそもそも特定派遣はなぜ廃止されたのでしょうか?
シンプルに答えるなら「労働者を守るため」という点に尽きると思います。

労働者にとって特定派遣で働くリスクとは

では一体特定派遣は労働者にとって一体問題があったのでしょうか?
「常時雇用」の特定派遣のはずが実際には有期雇用の繰り返しであったり、雇用者の都合で契約が切られてしまうなど、労働者にとっては不安定な状況が続いておりました。
ITエンジニアの世界では特にそうなのですが、下請けになるほど立場が弱いものです。
契約を結んだもののクライアントの予算都合で急遽現場を退場になってしまう、などはザラです。

こういった状況は雇用者(派遣会社)にとっては特に痛手はありませんが、労働者にとっては大きなリスクを抱えながら働いているといえます。
このような環境について看過できない、ということで今回の特定派遣廃止が行われたという訳です。
特定派遣でクビになったり賃金カットなど、著者もトラブルの話は絶えず聞いておりました。
以下はその知人の話を記事にしたものですのでよかったら参考にしてみてください。

特定派遣を廃止し、一般派遣一本化による正社員化への促進を促す

また、派遣会社に対しては「正社員化を促進する」という効果もあります。
これはどういうことなのでしょうか?
改正後の派遣法では、

  • 有期雇用の場合→3年の制限
  • 無期雇用(正社員)の場合→無期限で働ける

というルールになりました。
つまり3年以上同じ現場で働かせるのであれば正社員化しなくてはいけないよ、という訳ですね。
これによって正社員化の促進を行い、有期雇用の繰り返しというような労働者にとってのリスクを排除しようという狙いが見えます。

 

特定派遣廃止でSES業界はどうなる?IT業界への影響は?

さて、特定派遣廃止の基礎知識を仕入れたところで本題に入りたいと思います。
特定派遣廃止でSES業界への影響はどうなるか、という点です。

結論から言うと「ほとんど影響がない」ということになりそうです。
今まで話していたのは何だったの?と思いますよね。
しかし他の業種ならいざ知らず、SES業界について大きな影響がないというのが業界人の見方です。
それは何故なのでしょうか?
少し詳しく解説していこうと思います。

IT業界の下請け構造は変わらない

まず第一に言えるのが「業界の構造自体は変わらない」ということです。
Slerやベンダーを頂点とした業界の下請け構造自体は変わることがありません。
また、業界全体の人手不足というのもそうそうすぐに解決ができない問題です。

となると「どこからか人を調達してこなくてはいけない」という今の現状に変わりはありません。

では法改正後、派遣企業が派遣労働者を無期雇用化するでしょうか?
それはあまりにも現実味がありません。
その理由もIT業界の人間であれば簡単に理解できることです。

派遣契約でなくSES契約で契約しているから

SES企業の場合、派遣契約でなくSES契約(システム・エンジニアリング・サービス)といって
業務委託で契約を締結している割合のほうが多いからです。
もちろん派遣契約を締結している場合も多いのですが、自社の正社員であっても派遣契約でなくSES契約のケースであることも大変多いです。

わざわざ無期雇用の正社員化して現場に出すなどということをするメリットよりデメリットのほうが雇用者にとっては圧倒的に多いのです。
そうなってくると現状とあまり変わらないよね、という事ですね。
これが理由の一つです。

IT業界の現場はプロジェクトの予算ありきである。わざわざ正社員化はしない

もう一点。これは上記の補足になってしまいますが説明させていただきます。
IT業界の場合、プロジェクトを納期に間に合わせるということが大きなミッションです。
そのために人手が足りなくなるわけです。

SES業界で営業をするとよくわかりますが、3か月や半年単位で期間が終わる案件というのはとても多いです。
派遣会社というのは人材をアテンドしそのニーズを埋め、利益を上げる商売です。
プロジェクトによって求められる要件も異なってきます。
(市場的にニッチなスキルだったり、予算が厳しかったり)

そのたびに人を雇用して正社員化などしていたらリスクが大きいですし、あっという間に事業が傾いてしまいます。
であれば有期雇用契約やSES契約で手堅く利益を積み重ねたほうがいいですよね。
つまりSES契約で行えばいいのでわざわざ派遣契約をするメリットが派遣会社側にない、というのが補足の理由になります。

一般派遣資格を取得できない企業はどうなっていくのか

さて、次に一般派遣を取得できない企業はどうなっていくのでしょうか。
結論から言うと「今と基本的には変わらない」ということになります。
え?と意外に思うかもしれませんが、その通りなのです。
その理由は先に述べた通りで、多くのSES企業やベンダーはSES契約を結んでいるため、全く影響がないからです。
このあたりは業界人の中では共通認識です。

ただし常駐先が派遣契約必須で派遣元企業が一般派遣を取得できていないとなると問題があります。
建前上は3年契約の有期雇用になってしまいますし、そもそも一般派遣資格がないと派遣契約の締結ができません。
ただし現実問題としてこの業界で正社員を雇っている企業で、現金1500万円と資産2000万円が用意できないというケースは非常に稀だと思います。

もちろん正社員を雇わず完全に仲介だけやエージェント業に徹している企業にとっては全く影響がないのは言うまでもありません。
そういった意味で一部の企業の多少影響があるかもしれない、という程度の認識で間違いないと思います。

偽装請負問題への影響はある?

偽装請負、という言葉が一時期マスコミをにぎわせたのはご存じの通りです。
製造業やIT業などで見られ、実態は派遣契約であるのにも関わらず、請負での契約となっている場合を指します。
特に指揮命令系が雇用者以外の注文者であったり、責任者管理者が不在となることによって
労働者の安全衛生面的なリスクが発生するというのがこの問題のポイントです。

IT業界における派遣と請負のグレーゾーン

IT業界で常駐型の開発作業をする場合、「完全に一人で請負い完結する仕事はほとんどない」ということがさらに問題をややこしくしています。
開発現場において、一人の責任者や指揮命令系統を持つ人間だけと連携するとなると非常に仕事がしにくく、場合によってはほとんど作業にならないケースも決して少なくはありません。

SEの現場においての仕事はプログラミングをするだけではありません。
プログラミングを行う前の段階で、要件を固めたり関係者と認識をあわせたりという作業のほうがよほど重要で時間を取られたりします。
そのために関係者と打ち合わせをしたり、クライアントに訪問したり、他部署の人間に意見を聞いたりととにかく多くの工数と処理が求められます。
(そしてそれは非常にタイムリーに行う必要があります)

偽装派遣の問題は今後の課題である

では実際にそういった業務の一つ一つに指揮命令が必要となるとそれはとても現実的とはいません。
残念ながら一般派遣への一本化により、この問題に大きな改善が見られるかというとなかなか難しい問題です。

この問題は労働者、雇用者、発注者それぞれの立場があり法的な問題との兼ね合いで事情が絡み合います。
偽装請負という言葉面は非常に悪いのですが、こういった曖昧なシステムだからこそ上手くいっていたという面も否定できません。

また、Slerを頂点とする業界構造全体の問題でもあり、「どのような形がIT業界にとってベストか」というのは多くの議論がなされていますが結論がでていません。
このあたりは今後大きな課題と言えるかもしれません。

特定派遣廃止後、社員への影響はある?

さて、特定派遣廃止の影響によって現在派遣会社の社員であるSEにはどういった影響があるのでしょうか?
これについては「企業による」としか言えません。
ただし本文でもお伝えしたように基本的には影響は少ないでしょう。

一般派遣の免許がなければ会社を畳む、というような極端な例が起きないのは何度か説明をしたので
ご理解いただいていると思います。
派遣契約がNGの企業に常駐している場合はSES契約に変更にしよう、という事になると思います。

また、もしかしたら一般派遣をきっかけに正社員化を推進する、という企業がないとは言い切れませんが少ないと思います。
何故ならいいエンジニアであればとっくに正社員化して囲い込む、というのがこの業界の常識だからです。
そんな点も含めて現在派遣会社で働く社員への影響はほとんどないと思います。
補足説明として、そもそも自分がどういった契約で常駐しているか知らないというエンジニアが圧倒的に多いのも事実です。

まとめ

特定派遣廃止の影響についてお話してみました。
客先常駐や派遣SEの方はなどエンジニアの方は是非参考にしてみてください。
もしあなたが転職をお考えであれば転職活動の効率を上げるためには転職エージェントを利用することは必須と言えます。
著者のおススメのエージェントも紹介していきますので是非登録して活動をスタートしてみてください。
あなたのエンジニアライフが豊かになるようにお祈りしております。

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